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13/dec

Neuraminidase inhibitor(2)

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昨日に引き続き「リレンザ」の話です。よい話ばかりですが、問題点はないのでしょうか

副作用はありますか?

リレンザ非投与群

リレンザ投与群でさらにインフルエンザ陽性群

5日目での評価

2週後の評価

5日目での評価

2週後の評価

頭痛
-3.1
-1.7

-4.5
-1.8
咽頭痛
0
-1.0

ー1.5
-2.8
発熱
-3.4
-3.7

-6.1
-3.8
筋肉痛
-3.6
-1.0

-6.0
-5.0
咳嗽
-3.4
-2.5

-5.8
-6.3
鼻詰まり
0.7
0.5

0.5
0
倦怠感
-3.6
5.7

-5.3
-6.7
食欲不振
-2.7
-2.7

-5.4
-4.1
総合評価
-1.7
-2.7

-3.6
-4.5

悪化した

平均値は改善したが悪化したひともいる

平均値も改善し、悪化したひともいない

統計学的にp<0.05で改善した

fig.1 文献1のMean differences in symptom scores between patients on zanamivir and placebo
)より改変

この表は12歳以上の455人を対象にした二重盲検法によるインフルエンザ様疾患に対してのzanamivir(リレンザ)と、プラセボ群の自覚症状の改善度を示したものです。リレンザ投与群の改善がほかの対症療法を行った群にくらべると明らかに良好であることが判るばかりでなく、薬による副作用もほとんどありません。このほかにも検査データの悪化など、薬特有の副作用もみられなかったそうです1)

耐性株の発生はありますか?

験室レベルでは確かに耐性株が報告されています。しかし現在のところ臨床の場で問題になった例は少ないようです。耐性株の多くはH1N9というまだヒトに感染したことがないA型インフルエンザが主体で、インフルエンザのhaemagglutinin(HA)部分の2個から3個のアミノ酸の変化が起こり、耐性を獲得しています2)

中にはH2N2という過去に猛威を振るった株で耐性がみられたという報告もあります2)。しかしこの場合、動物実験をすると十分Zanamivirの効果が残っている結果が得られています。耐性株の生体への適合性が低下したととれるかもしれません。

臨床の場で唯一報告されている耐性株は、免疫不全の小児が罹患したB型インフルエンザによる肺炎の治療に、2週間にわたるzanamivirの投与中、8日目にhaemagglutininの変異が、そして12日目にNeuraminidaseの変異がみつかっています。この株のzanamivirの酵素活性阻害作用は1000分の1に低下していますが、動物実験するとその増殖能力も低下しているそうです2)

「リレンザ」による治療は5日間が目安です。長すぎる投与にも問題がありますが、中途半端な治療も耐性株の発生のきっかけになるということでしょうか。それでもアマンタジンのように耐性株の発生が前提となる3)治療薬よりも大変すぐれていると考えられます。

参考

  1. The MIST(Management of Influenza in the Southern Hemisphere Trialists)Study Group:Randomised trial of efficacy and safety of inhaled zanamivir in treatment of influenza A and B virus infections ,The LANCET vol 352 Dec 12,1998 1877-1881
  2. David P. Calfee and Frederick G. Hayden,New Approaches to Influenza Chemotherapy Drugs 1998 Oct:56(4):537-553
  3. Resistant virus、薬剤耐性A型インフルエンザ 21/Jan 1999

11/dec

Neuraminidase inhibitor

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本日の各新聞に厚生省の中央薬事審議会が開かれ、インフルエンザの治療薬である「リレンザ」の輸入承認の答申がなされたことを伝えました。これによると年内に承認手続きが行われ、来年1月には処方薬として使用できるそうです1),2)。異例のスピード承認への路を歩みだしたと言うことです。

さて、この「リレンザ」一般名ザナミビルは、丁度去年の今頃取り上げたNeuraminidase inhibitor3)です。その効果は非常に高く、去年同じく追加認定されたA型インフルエンザ用治療薬アマンタジン4)と比較すると100〜1000倍も強いとする報告もあります5)

副作用もみられないという報告もあり6)、多彩な副作用のあるアマンタジン7)よりも大変すぐれている印象があります。それなら、実際のところこの薬さえ有れば完璧なのでしょうか。

予防薬として使えますか?

予防薬として使用できます。しかし、実際のところインフルエンザが流行する2ヶ月間から3ヶ月間のあいだ、あなたは薬を処方し続けてもらいますか?

あまりの効果の強さで、ウイルス暴露の前に「リレンザ」を使用すると、96%の人が症状が出ません。それどころか82%の人は感染自体をブロックされ、免疫が出来ないそうです8)

免疫が出来なければ、飲み続けるしかないということになりますが、日本の保険制度からいうと、こういう処方に保険は適応されません。一日1000円ほどの薬代を毎日払い続ける必要があるということになってしまいかねません。現実的ではないですね。

治療薬が有るわけだから、予防注射はいらない?

どのくらいの効果があるか、実際の報告をみると、咳とか発熱といった症状が、自然の経過だと約1週間続くものが4日間ぐらいですむ8)そうです。3日間も短くなるというのは大変助かりすね。ただ4日間は酷い目に遭うということを認識しなくてはなりません。しかも、これは理想的な時期に薬を始めたという条件がつきます。正確にはウイルス暴露から30時間以内に治療が始まった場合に限られます。これを過ぎると、例えば50時間後では症状の短縮はないそうです8)。丸一日あるといっても、私たちは「あっ、今ウイルスが入ってきた」などと判るはずもなく、症状が出始めてから初めて、「しまった、かかったかな?」となります。その時には既に貴重な十何時間が過ぎ去ってしまっているということになります。やはり予防注射は必要だと考えます。

治療薬として使った場合、免疫はつきますか?

免疫はつきます。使わなかった場合と使った場合では差はないそうです8)。ただし、抗体価は徐々に下がり、毎年少しずつ変化するインフルエンザウイルスに対抗するには、去年の免疫を思いっきり高める必要があります。交差免疫を期待するわけです。予防注射をしておくことで体に免疫を思い出させるのが有効です。

インフルエンザには全て利きますか?

Neuraminidase inhibitorである「リレンザ」はアマンタジンと違い、A型インフルエンザにもB型インフルエンザにも効果があります。しかし、インフルエンザ流行時期にみられる「インフルエンザ様疾患」のうちの約4割弱はインフルエンザではないと報告されています6)、9)。万能ではありません。

こどもにも使えますか?

カプセルに入った粉薬を専用の器具に入れて吸い込む必要があります。練習すれば出来るかも知れませんが、やはり小学校低学年には難しいかも知れません。また、子どもに対しての安全性は確かめられていないため、その使用は現場の医師の判断にゆだねられています。

妊婦には使えますか?

禁忌になっているそうです。従って妊婦さんには使用できません。治験のとき妊娠の可能性のある女性は全て妊娠テストを行い、妊娠していない人が対象でした。同様に授乳中の人も除外されています10)また、薬の排泄が腎臓から行われるため、腎機能の低下した人にたいしては慎重な投与が必要でしょう。

どこで買えますか?

薬局では買えません。かならず病院を受診し、処方してもらうしか有りません。ただ、まだ販売されていない薬ですから、2000年の前半では、出してくれる病院と出せない病院が混在するでしょう

病院関係者の方に提案があります。「リレンザ」を今期、すなわち1999-2000シーズンで採用された施設で、このページでも紹介してかまわない場合は、メールでお知らせいただけないでしょうか。専用ページを作りたいと存じます。

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参考

  1. 東京新聞紙面 11/Dec 1999
  2. 読売新聞紙面 11/Dec 1999
  3. Neuraminidase inhibitor、ノイラミニダーゼ阻害剤 6/Dec 1998
  4. Amantadine、インフルエンザ治療と塩酸アマンタジン 28/Nov 1998
  5. Wood,J.M.,Bethell,R.C.,Coates,J.A.V.et al.:4-guanidino-2,4-deoxy-2,3-dehydro-N-Acetyleneuramic acid is a highly effective inhibitor both of the sialidase(Neuraminidase) and of growth of a wide range of influenza A and B viruses in vitro.Antimicrob Agents Chemother,37:1473-1479,1993
  6. Hayden,F.G.,Osterhaus,A.,Treanor,J.J. et al:Efficacy and safety of the Neuraminidase inhibitor zanamivir in the treatment of influenza virus infection. N Engl J. Med, 337:874-880,1997
  7. SYMMETREL、シンメトレルの副作用について 13/Feb 1999
  8. David P. Calfee and Frederick G. Hayden,New Approaches to Influenza Chemotherapy Drugs 1998 Oct:56(4):537-553
  9. 松本慶蔵:開発途上の抗インフルエンザ剤〜ニラミニダーゼ阻害剤を中心に〜 臨床と研究 75巻12号 2615ー2619、1998
  10. The MIST(Management of Influenza in the Southern Hemisphere Trailists)Study Group:Randomised trial of efficacy and safety of inhaled zanamivir in treatment of influenza A and B virus infections ,The LANCET vol 352 Dec 12,1998 1877-1881

19/Nov.

Time Limit

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インフルエンザの予防接種を始めるには、そろそろタイムリミットが近づいています。今年の状況も含め少しまとめてみることにします。

インフルエンザの予防注射の効果ってありますか?

インフルエンザの予防注射をしても風邪にかかってしまいました、という話をよく聞きます。ここで注意しなくてはならないのは、風邪とインフルエンザがまった別のものであるという認識が必要だと言うことです。インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症であり、その流行時期に通常の風邪の流行も重なり、症状が似ているため区別が付きにくいということが言えます。しかし、インフルエンザは症状が重く、死亡例もあります。事実今年の1月〜2月のインフルエンザでの死亡例は1154人に及びました1)

実際のところどのくらいの人がインフルエンザなのでしょうか。1994年〜1995年の北米、欧州でのインフルエンザ流行期において、18歳以上の健康な人で、インフルエンザの様な症状を示した人(病院で、インフルエンザでしょうと言われたひとですね)のうちで、インフルエンザ確定例は417例中262例、63%だったそうです2)。日本では同じ条件で116例中73例が確定し、偶然同じ63%だったそうです3)

このことは、最初から病気になった4割弱のひとは「インフルエンザに似たインフルエンザ以外の病気」になっていたわけで、もちろんインフルエンザの予防注射は効果ありません。

それでは、インフルエンザにかかってしまった6割の人がもしも、予防注射をしていたら、どのくらいの人が効果があったのでしょうか。廣田良夫先生がまとめたところによると、発病に対してはリスクを7割〜9割下げることもあると述べられています。死亡に関しては有効率が80%であるとも述べています4)。もし最高9割の効果有ったとすると、インフルエンザ確定例の60%のうちの1割が発症したして、インフルエンザ以外の40%と加えると46%の人が見かけ上「注射が利かなかった人」になります。9割も効果があっても約半分の人は「ダメダメ」と思ってしまうのですね。これが、「インフルエンザの注射って効果ないのじゃないか」という疑問に繋がっていると思います。

毎年接種する必要があるのですか?

流行を起こすインフルエンザはA型、B型の2種、さらにA型はソ連型、アジア型、香港型の3つのsubtypeに分かれます。そのサブタイプでも抗原の連続変異(drift)が起こりやすく、同じ香港型でも少し違うvariantがたくさん存在するのです。予防注射はvariant間での交差免疫を期待して接種しています。そのためワクチンを作るときのワクチン株はsubtype別に混合されているだけではなく、その年当たりそうなvariantを選定して作成されているのです。中身は3種から4種の混合で、毎年少しずつ違ったものです。だから、毎年接種した方がよいのです。

1998〜1999シーズンワクチン株
1999〜2000シーズンワクチン株5)
  • A/北京/262/95(H1N1)(250 CCA/ml相当量)
  • A/シドニー/5/97(H3N2)(300 CCA/ml相当量)
  • B/三重/1/93(300 CCA/ml相当量)
  • A/北京/262/95(H1N1)(200 CCA/ml相当量)
  • A/シドニー/5/97(H3N2)(350 CCA/ml相当量)
  • B/山東/7/97(300 CCA/ml相当量)

去年と変化したのは、その成分比、B型インフルエンザのvariantが変わっています。

今年は何型が流行するのでしょうか?

難しい問題です。ただ例年A型が12月15日前後から急激に流行し、来年A型が少なくなってきた頃B型が流行するパターンです。A型の中では香港型のvariantの一つであるA/シドニー/5/97に類似した株が10月21日に静岡で見つかっています6)。今年もこの類似株が流行するので有れば、ここ3年間の流行株と似ているために、大きな流行とはならないという意見もあります。しかし、専門家は東アジアの一部で流行したA/福島株様variantが流行するかもしれないとして心配しています7)。この福島株はシドニー株から2カ所以上変異したものであり、シドニー株に対しての免疫を十分に蓄えないと、交差免疫が期待できないそうです。特に5歳以下、20歳以上の免疫が低めとのこと7)。出来るだけ準備はしておいたほうが良さそうです。

予防注射でインフルエンザにかかることはありますか?

日本で接種されているインフルエンザワクチンは生ワクチンではなく、不活化ワクチンであるので予防注射でインフルエンザを発症することはありません。不活化ワクチンであるため原則として2度の接種が必要です1),8)

ゼラチンアレルギーでこれまでインフルエンザ接種が出来ませんでした。今年も同じ状況ですか?

1998年の状況は

ワクチン名称
ゼラチンの種類
ゼラチン濃度
製造販売

インフルエンザHAワクチン「チバ」

豚の皮
0.02(W/V%)

千葉血清:三共

インフルエンザHAワクチン「ビケンHA」

0.02(W/V%)

阪大微研:田辺製薬

インフルエンザHAワクチン「生研」

牛の骨
0.02(W/V%)

デンカ生研

インフルエンザHAワクチン

牛の骨
0.02(W/V%)

北里研究所第一製薬

インフルエンザHAワクチン「化血研」

豚の皮
0.02(W/V%)

科学及血清療法研究所

しかし、今年度からはインフルエンザHAワクチン「化血研」やインフルエンザHAワクチン「ビケンHA」などからゼラチンが含まれなくなっています。接種してもらうときに医師に相談してください。

卵アレルギーがあるのですが接種できますか?

インフルエンザワクチン製造時、発育鶏卵の尿膜腔液から抽出するため、これまでと同様卵アレルギーをを持つ人は十分注意する必要があります。卵を食べてアナフィラキシーショックを起こしたことがあるなど、重篤なアレルギー疾患を発症したことのある人は、打たない方が良いと思います。卵アレルギーがある人は医師と相談して下さい。

接種による副作用にはどんなものがありますか?

発熱や頭痛、悪寒、倦怠感を感じる場合があります。普通は2〜3日でおさまります。極希に(宝くじに当たるぐらい)重症の急性散在性脳脊椎炎やギランバレー症候群など重篤な副反応が見られる場合もあります。接種するときは医師と相談して納得してから受けて下さい。変なたとえで申し訳ないのですが、私は未だに1億円の宝くじを当てたという人が近くにいたという話を聞いたことが有りませんが、インフルエンザにかかって亡くなった子どもや、脳症、脳炎になった子どもを何人か知っています。

参考

  1. 1154、1154人 13/Jul 1999
  2. Hayden,F.G.,Osterhaus,A.,Treanor,J.J. et al:Efficacy and safety of the Neuraminidase inhibitor zanamivir in the treatment of influenza virus infection. N Engl J. Med, 337:874-880,1997
  3. 松本慶蔵:開発途上の抗インフルエンザ剤〜ニラミニダーゼ阻害剤を中心に〜 臨床と研究 75巻12号 2615ー2619、1998
  4. 廣田良夫、加地正郎:インフルエンザワクチンの効果と副作用 臨床と研究 75巻12号 2558ー2566、1998
  5. インフルエンザHAワクチン”化血研”,Drug Information 1999年8月改訂
  6. 今シーズン(1999/2000)当初におけるインフルエンザウイルスA(H3)型の分離−静岡県
  7. インフルエンザ抗体保有状況速報 26/Oct 1999
  8. influenza virus vaccine (3),インフルエンザワクチン一回接種法の有効性 30/Jan 1999
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Medical macintosh (c) 1998,1999,2000,2001,2002

Written/Edited by Y.Yamamoto M.D.

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